元祖「スカイレイダー」が名機になったワケ
2025年2月27日、アメリカ空軍はある意味で異例とも言える新型攻撃機の命名式を行いました。その新型機の名はOA-1K「スカイレイダーII」。名前を聞けば、往年の名機A-1「スカイレイダー」を思い出す人も多いのではないでしょうか。

OA-1K「スカイレイダーII」攻撃機。アメリカ空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)は2025年4月3日、最初の任務仕様機を受領したと発表している(画像:アメリカ空軍)
OA-1K「スカイレイダーII」攻撃機。アメリカ空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)は2025年4月3日、最初の任務仕様機を受領したと発表している(画像:アメリカ空軍)

しかし、今回登場したこの機体は、見た目にも性能的にもハイテクとは程遠いものです。プロペラ機で、主翼は直線翼、尾輪式の固定脚なため、一見すると、むしろ「野暮ったさ」すら感じます。なぜ、このような機体が今の時代に必要とされたのでしょうか。
OA-1K「スカイレイダーII」は、速度300km/h台のプロペラ機です。ステルス戦闘機が空を支配するこの時代において、あまりにも時代遅れな印象を受けるかもしれません。ですが、これは単なるノスタルジーからA-1「スカイレイダー」の名前を襲名したわけではありません。
そもそも、A-1「スカイレイダー」は、第二次世界大戦末期に開発され、朝鮮戦争からベトナム戦争にかけて活躍した単発レシプロ攻撃機です。飛行速度はジェット機ほど出ませんが、逆に低速でも安定して飛行可能なため、爆弾投下時にはジェット機を上回る攻撃精度を実現しており、大量の爆弾を搭載できる能力、そして長時間の滞空が可能な点などと相まって、対地攻撃においては大きなアドバンテージとなり得たのです。
OA-1Kも、この「低速だからこそ多様なメリットを持つ」というコンセプトを引き継いでいます。現代の対テロ戦争やゲリラ掃討作戦においては、高速ジェット機が持つ「速度」は必ずしも利点ではありません。低速で目標上空に長時間留まり、リアルタイムで戦況を把握しながら柔軟に攻撃できる機体が求められる場合も少なくありません。
そのため、OA-1Kも出自は一般的な軍用機とは一線を画しています。原型はなんと農薬散布機です。アメリカの農業航空機メーカーが製造する汎用ターボプロップ機エア・トラクターAT-802Uを軍用に改造する形で誕生しています。
ゆえに、外見的には洗練されたジェット戦闘機とはほど遠いデザインで、冒頭に記したような見た目なのです。しかし、だからこそ低コスト化とメンテナンスの容易さも兼ね備えています。
「スカイレイダーII」米空軍でどう使う?
このような農業用の民間機に最新の電子機器を搭載することで、OA-1Kは戦場の「目」として機能するように仕立てられています。高度な光学・赤外線センサー、そしてデータリンクを装備しリアルタイムで戦場を監視。また、ハードポイントには誘導爆弾や対戦車ミサイルを搭載でき、これらによって精密な近接航空支援を実施可能です。
アメリカ空軍は近年、高価なF-35やF-22といった第5世代ジェット戦闘機に多額の予算を投じてきました。しかし、これらの機体は対ゲリラ戦や低強度紛争において必ずしも効率的とは言えません。たとえば、F-35が一度の出撃で消費するコストは数百万円と膨大です。しかし、相手が少数の武装勢力である場合、そこまでの高性能は不要なことも多々あります。そうした作戦時に、OA-1Kはコスパ良く作戦の支援が可能です。
運用コストの面でも大きな利点を持ち、燃料消費が少なく、整備も簡単で、何より機体そのものの価格が安価なのは大きな利点と言えるでしょう。加えて、C-17輸送機で空輸でき、数百mの直線道路、もっと言えばちょっとした広さの空き地があれば離着陸可能な優れた短距離離着陸能力も備えるなど、世界中で長時間の哨戒や近接航空支援のミッションを低コストで継続することを可能とします。
こうした特殊な条件下で運用する飛行機だからか、OA-1Kの配備先はアメリカ特殊作戦軍隷下の空軍特殊作戦コマンドです。特殊作戦軍は、対テロ戦や不正規戦といった少数の精鋭による戦いを主要な任務としており、必要に応じて長時間空域に留まり、的確なタイミングで精密な攻撃を実施できるOA-1Kは、理想的な機体となる可能性が高いと言えます。
なお、2025年4月3日には、アメリカ空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)が、最初の任務仕様のOA-1K「スカイレイダーII」を受領したと発表しています。
「スカイレイダー」の名を受け継いだOA-1Kが、これからの戦場でどのように活躍するのか。旧世代機のコンセプトを新時代に適応させたこの機体の運命は、今後の戦場のあり方を示す試金石となるでしょう。

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